今日のアウトサイダーアーティストは、フェルディナン・シュヴァル。
フランスの「シュヴァルの理想宮」という建築物をたったひとりで33年をかけて作り上げた人。
しかも作り始めたのは43歳から。。!っていうことは完成したのは76歳。
おおッ、ものすごいパワーです。
シュヴァルはなぜそんなにこの建築物を建てることに熱中したのでしょうか。
郵便配達夫シュヴァル
シュヴァルは1836年にフランスの南東部にある小さな村シャルムで生まれました。
1864年から郵便配達夫として働き、42歳の頃オートリーヴという故郷に近い小さな村に赴任します。
当時、自動車がなかった時代ですから、シュヴァルは郵便配達夫として30km近い道のりを毎日歩いて配達していたそう。
シュヴァル自身とにかく頑丈な身体だったそうで、たくさんの束になったハガキや封筒の入った重たい鞄を持ちつつ配達の仕事を休むことは一日もなかったんだって。すごいよね。
そしてこのただひたすらに30km歩き続ける毎日の中、シュヴァルは理想宮の想像を膨らませ、空想をしていたようです。シュヴァル自身の自叙伝にも
「同じ環境を毎日歩き続けている時に、夢を見ること以外に、何をすることがあるだろう。」
と回想していたそう。
この理想宮の空想は、絵に描けるほどにハッキリとしていたのだけれど、自分の精神状態がおかしいのかなとか、このことを人に言うとおかしな人だと思われるのではないかと怖れて、誰にも言うことはなかったのです。
建築についてなど学んだことのなかったシュヴァルは、この空想の中の建築物を実際に作ろうなどとはまったく考えていなかったということです。
でも。。。
43歳のある日。。
郵便配達夫として働き始めて15年が立ったある日のこと。
石につまずいて転びそうになったシュヴァル。
その石をよく見てみると、今まで見たこともないような不思議な形をした石だったらしく、その石を家に持ち帰ったそう。
そこからシュヴァルは石に魅了され、
自分には建築の知識もなければ技術もない。でもこの石も技術によって作られたものではなく自然界が作り出したもの。ということは、自然界の中の一部である自分もそういう力があるのではないだろうか。
と考え、自然に宿るこの力を借りて、私は石工と建築家になろう。
そう自分に言い聞かせて、自分の空想の中だけでとどまっていた理想宮の建設にとりかかったということです。
これすごいよね。
シュヴァルの43歳からとりかかった行動力もすごいけれど、この考え方すばらしいとマスダは思いました。
人はピラミット構造的な、いちばん上が人間様みたいな人間中心に考える人も多いと思うんですが、シュヴァルは自分自身を自然界の中の一部とちゃんと感じて、そしてその力を信じ33年間ブレずにやり続けたことに尊敬の念を抱きます。
(実はこの33年間作り続けた後に、また8年間かけて自分と妻が入るお墓として別の建築物を作っています。)
シュバルやべーな。
↑いやいい意味で。
理想宮を作り続けられた訳
シュヴァルはなぜこんなにまでも理想宮を作ることに没頭出来たのでしょうか。
そこにはジョゼフ・カディエという理解者とたくさんの家族の死が関係していたのではないかという考えがあるようです。
理解者ジョゼフ・カディエ
シュヴァルが作った理想宮には完成予想図としての素描があったらしいが、それを描いたのがジョゼフ・カディエだそうで、この人物は交霊術師でもあったそう。
アウトサイダーアートと交霊術。。!
以前も「交霊術によって制作していたアウトサイダーアートの作家たち。」という記事に書きましたが、アウトサイダーアートには何かしら見えない存在とのつながりから生まれるものも多くあるんですよね。
マスダはこういった部分も魅力に感じているのかもしれません。
このジョセフ・カディエが交霊術によってシュヴァルの理想宮への何らかに関わっていたのかどうかはわかっていませんが、カディエが描いた素描とシュヴァルの完成させた理想宮がほとんど変わりないことから、二人の間にはきっと想像しているよりも大きな関係性があったのではないでしょうか。
カディエは残念なことにこの素描を描いた翌年に亡くなられたそうです。
家族の死
そしてカディエの死以外にもシュヴァルのまわりの人たちの多くが亡くなっています。
シュヴァルは父親と2番目に結婚した妻との間に生まれた子供だそうですが、この母親はシュヴァルが11歳の時に亡くなっています。
父親は3度目の結婚、そして離婚をし4度目の結婚の後シュヴァル19歳のときに父親も亡くしてしまいます。
22歳には結婚し長男を授かるものの翌年に亡くし、次男シリルが生まれるものの今度は妻が急死します。
シュヴァル。。大丈夫かな。。
妻を亡くし再婚したシュヴァルはすぐに娘のアリスが生まれますが、アリスも15歳でこの世を去るのです。
唯一次男のシリルは順調に育ち、結婚してふたりの子供も生まれますが、結局シリルも結核によって亡くなってしまい、その2年後にシュヴァルの再婚した妻も亡くなり、次男の嫁と孫ふたりだけが残されました。
すべての子供たちを自分よりも先に亡くすことの壮絶な悲しみは本当に想像を絶するものだったのではないでしょうか。
マスダは子供をひとり亡くしていますが、そこから一生絵を描いて生きていく、という覚悟が出来たこともあり、きっとシュヴァルも多くの家族を亡くしたことによって、この理想宮を完成させる覚悟みたいなものとその亡くした家族たちの力みたいなものもあったのではないかと思ってしまいました。
このシュヴァルの理想宮は現在、フランスの重要建造物に指定され一般公開されているのでぜひ行ってみたい場所のひとつです。